このへんの続きです。
シェリル・ナイト1シェリル・ナイト2まだまだプロローグですねん。
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シェリル・ナイト3
「確かなの?」
「ええ。救助要請は早乙女大尉の乗用車から。そしてオート・メッセージですが、ドライバーはシェリル・ノーム本人であると言っています。」
緊急車である証の回転灯をまたたかせて、軍の公用セダンが走る。
運転するのは、部下の一人だった。
連絡が入るのとほぼ同時に、宿舎に迎えに来た。
もともと待機命令中の一時帰宅だったから、アニー・ブライス大尉はすぐにその車に乗り込んだのだ。
夫のギルが帰宅済みだったから、娘の心配をしなくても良いのが幸いだった。
「シェリルは・・・いえ、シェリルさんは一人?」
助手席から、アニーが部下に聞く。
「はい。すでにスクランブルしたソードダンサー2と3が到着していますが、早乙女大尉を現地で見つける事は出来ていません。現場にはいらっしゃらなかった様です。」
「そう・・・。 で、彼女は無事なのね?」
「はい。」
返事を聞いてアニーは安堵する。
「(・・・。)」
まずは一安心だ。彼女になにかがあれば、早乙女大尉が黙ってはいない。
あるいは、それこそ銀河中のファンからも殺されてしまう。
車外を流れる景色の先に、目的の工場地帯が見えて来る。
「(とにかく、シェリルが無事で良かった。 ・・・早乙女大尉はああ見えて生存スキルは高い。無事でいてくれるはず。)」
禍々しく、軍と警察車両が発するさまざまな光の中心に向かい、セダンは進んだ。
ひざまずき、両手をあげた姿勢のまま、活動停止したガウォーク。
その背中には、見慣れた2ドアのラリーカーが鎮座する・・・。
ったく、どんなアクション・シーンの後なら、こんなふうになるのやら。
旧型のナイトメア・・・、どこから持ち出したの?
パイロットはまんまと逃走したみたい。
VFを見上げていたアニーは、すぐに聞き慣れた声を耳にする。
落ち着いた会話だ。
その放棄されたナイトメアから少し離れた場所で、見慣れたストロベリー・ブロンドの女性が警察官と話している。
このスポットライトのような投光のなかで、その髪は眩いばかりだ。
警察官の方がガチガチに緊張しているのがはた目にも分かる。
ふっ・・・ったく、たいしたものね。
「ははっ、やっぱりあなたは最高ね。シェリル!」
警官との会話が途切れるのを待って、シェリルに話しかけた言葉は、アニーの悪気のない本音だった。
簡易毛布を肩に、警察官の聴取を終えたシェリルが振り返る。
アニー・ブライス大尉。
顔なじみの基地広報大尉。
アルトの同僚で、彼女の夫のギルは、やはりパイロットだ。
夫婦には、一人娘のリラがいる。
笑顔で迎える。
「あらっ・・・、こんばんはアニー。 ちょっと来るのが遅いわよ。」
アニーの後方にシェリルの視線が泳ぐ。
彼女に続く、軍関係者は居なかったし、シェリルが探す人も居ない。
「大丈夫だった?」
アニーが問うと、シェリルが応えた。
「ええ、もちろん。 でっ?アルトは駆け付けてくれないのかしら。 まったくあいつったら!なめられたものね。」
「シェリル・・・。」
アニーの顔が文字通り曇る。
「何?」
シェリルが問い返した。
「大丈夫か?」
「・・・うん。」
荒い息で、ちいさい汗をにじませながら少女が応える。
起き上がろうとする動作すらみせる。
「こらっ。ちゃんと横になっていろ。さっき飲んだ薬もじきに効いて来る。」
毛布代わりの自分のジャケットを彼女の肩に掛け直してやる。
ソファなどではない、荒いつくりの簡易ベンチだ。
もうすこしちゃんとした場所で横にしてやりたいのだが。
夏とは言えこの惑星の夜は冷える。
ここが地下空間だからまだ耐えられるのか。
発光体の薄い明かりが薄ら寒く感じさせる原因なのか。
この予備室に備え付けられた、サバイバルボックスの貧弱な装備では心ともない。
薬・・・。
隠すように大事にしまわれていた薬。
この子のポーチから見つけた薬包のデザインとパッケージをみて、一瞬凍り付いた。
症状は、周期的な目眩や発汗、嘔吐感を伴う頭痛。
そう、アルトにとっては、あの戦いの最悪の時期に見慣れた組み合わせと一緒だった。
少女の額に汗がにじむ。
濡らしたタオルで、その額を小さく押さえてやる。
ありがと・・・、アルトを見上げて少女がそんな笑顔を見せる。
「大丈夫だ。ちゃんと休めば熱も引く。明日になれば、パパとママに連絡できるところまで行ける。」
「ありがと。」
少女は、今度は小さく、だがちゃんと言葉にして返す。
アルトもほほ笑み返す。
「大丈夫だよ・・・。だから、おやすみ。」
・・・V型感染症。
よりによって、この惑星(ほし)で、もう一度目にするなんて・・・。
つづく!
と・・・いなあ~。
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- 2014/03/05(水) 23:40:34|
- 作品(マクロス小説)
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