とりあえず間に合った。
とにかくUP。言い訳は明日!
「あいつ」って、言っちゃった。
うふっ・・・、アルトくんの事、「あいつ」って。
シェリルさんみたい? アハハっ、シェリルさん怒るかな。
潤んだ目のランカから、笑みがこぼれる。
今は・・・、何だか二人を思って涙ぐむより、笑顔でいる方がいいと思える。
午前中の、まだ人もまばらな地下街。 地下鉄の駅までを歩く。
まだ、くじけるには早い。
そう、誰も出来ないなら私が、やる。
短いランカの操作に応えて、オオさんショウおが「キュッ」と鳴く。
兄に、電話が繋ったのだ。
「あっ、お兄ちゃん? あたし!
これから『あいつ』・・・じゃない、 アルト君がSMSに帰るはずなの。 イジイジしてるから、ぶん殴ってやって!
・・・そう!
それとさ、シェリルさんの事だけど・・・、お兄ちゃんはどう思ってるの?
うん・・・。 そう、そうだよね? でさ・・・」
<義勇軍>
「行った?」
ハンドルを抱えて、上空を見つめながら、グレイスに聞く。
マリには、実際にはさっきから、何も見えてはいない・・・。市街地での軍用光学迷彩の有効性は、長年の研究がもたらした成果なのだろう、今や通常の人間が認識できるレベルではない。
「"ええ。 私達のマークではないわ。 たぶんブレラを追っているんだと思うの。"」
ランカが、さっきまでここに居たのだ。
って事は、彼もまた近くにいたのだろう。
光学迷彩で飛び回るフロンティアのEX兵も、人込みの市街地で、やたらめったらぶっ放すことは出来ないって事か。
彼が近くにいる可能性は意識していた。
だが、ブレラとのこのすれ違いは、分かり和えた気がするだけに悲しい。
たぶん、あとほんのちょっとのきっかけがあれば、いいんだけど・・・。
あんないい男なのに、勿体いないわ。
ポーシェのインパネ、外部通信中の緑色のランプがつきっぱなしだ。
たぶんグレイスが外の何かを探っているのだろう。
なるほど、高級車にこだわったのは通信環境にコストがかかっている車体を選ぶためもあったか。
私が、最後にツエルブのママに連絡したのはいつだろう?
「(あら?電話なんて珍しい。)」
「元気?」
「(もちろん元気よ。)」
「パパは?」
「(外、農園に出てるわ。)」
「そう。」
「(こんどはいつ帰れるの?)」
「もう!そればっかりなんだから・・・。」
いつもの、そんな会話だった気がする。
あとで電話でもしておこうか、万が一避難が始まるようであれば、それだけは応じてもらわなければ、生命に関わる。
「”出して。 SMSに行きましょう。”」
マリは、黙ったまま車を出した。
車窓にポツポツと雨滴。
やがて、徐々に激しさを増し、雨が、今や大粒の雨滴となり、フロントウィンドウを濡らす。
ワイパーって200年くらい前から進化して無いって、聞いた事がある・・・。
右に、左に、入れ替わるブレードをみながら、ふっとそんなウンチクを思い出す。
「"全船団的に、激しい雨となります・・・、ですって。 アルカトラスのある環境艦では雷雨らしいわ。"」
カーラジオでも聞いていたのか?グレイスがしばしの沈黙をやぶり話し続ける。
「"ランカちゃんは、アルカトラスに向かってる頃・・・、かしらね。"」
助手席に、雨の街を見るグレイスが、座っているようだった。
たぶん長い足を組み、物憂げに外に目をやっているのだろう。
まったく、お役がかかってるわ・・・。
「グレイス・オコナーの代理人です。
アポイントはお願い出来て無いんだけど・・・、って、 あら? 出来てるの?」
SMSの受付カウンターを訪れた女性だ。
車寄せに乗り込んだ高級車と、小さい監視カメラに映る女性の雰囲気から、いつもの有名人が来たのかと一瞬勘違いする。 が、なんて事だろう、今やその人は刑務所の中だ。
アイランド・ワンから離れた環境艦に移送されたって、ニュースに出ている。
長身のスタイルと、長い手足。
ショートヘアに、タイトなライダージャケットとホットパンツ。
そして、大きめのサングラスとくれば、よくよく、最近よく来るその有名人に雰囲気が似ていなくもない。
まあ芸能人である事は間違い無さそうだ・・・、なんて考えながら、受付職(男子)は訪問予定者リストを確認する。
ああ、あった。この人か。一応確認。
「お名前と訪問先を頂けますか?」
「あら? (ちゃんとアポイントは取ってあるのね。)
キャプテン・ワイルダーにお会いできるかしら。
マリー・アントワープ。 グレイス・オコナーの代理人って、言ってちょうだい。」
受付に微笑むマリに、グレイスがささやいた。
「"ごめんなさい。アポOKの件は言ってなかったわね。"
"おさらいすると、契約の支払い残金はちゃんと用意があるからって、シェリル救出を促す事。
あと、例のヒュピュノス設置に駆り出されてるSMS隊員の暗殺計画。これは至急説明してあげて。
同時にフロンティア政府の現状も報告。"
"この3点くらいかな。 マリにかかっているわ。 信頼してる。"」
「はいはい、はい。」
「"『はい』は、二回くらいの方が、不満を伝えるには良いかもね。"」
「ふっ・・・」マリが笑みを浮かべるのと、面白がるグレイスの気配が伝わるのは、ほぼ同時だった。
案内されたキャプテン・ワイルダーとの面会場所は、軍艦のブリッジだった。
SMSのクォーター級マクロス艦。
その名も「マクロス・クォーター」・・・って、そのまんまの名前だわ。
軍艦のブリッジなんて始めて・・・。
「"あらら、ファイルがなんでもかんでもファイヤーウォールの向こう側ね。軍機密の扱いとしては模範的な管理だわ。 それとも案外隠すものがないとかかしら?"」
グレイスが、グチっぽく呟く。
それくらいの方があんたは足が出なくていいんじゃない? ・・・とは、もちろん言葉にはしない。
ほんと、最近は『独り言少女』だから、気を付けないと。
その話が終わる前に、ワイルダーがしぐさで、マリの言葉をさえぎった。
「・・・ふむ。 モニカくん、至急誰かをアンジェローニ少尉の元にやってくれたまえ。」
「はい!」
緊張した声が返る。
それはそうだろう、今マリから話された内容は、フロンティア政府による、彼らの同僚の暗殺計画なのだから。
「ブラン中尉が、EXギアで出れます。」
ショートヘアのオペレーターは、着艦デッキと話しているのだろう、的確な指示を飛ばす。
「ミハエル? 準備出来次第発進OKよ。右舷のカタパルトが使えます。
ルカは、アイランド・ワン東部天蓋ブロックで、例のマシーンの設営の監督をしてるわ。
座標送ります。 彼のビーコンは生きてるけど、さっきから、こちらの呼び掛けには応えてないわ。
精巧なジャミングがかかっている。」
相手のパイロット、ミハエル?の返事は、オペレーターのみが拾っているのか。
いくつかの会話を進めている。
「・・・了解。」
順番に確認をすませて、オペレーターがこちらを振り向きながら言った。
「艦長!救急艇も準備できしだい随伴させます。」
アイコンタクトで、オペレーターにうなずいてから、ワイルダーが、マリに向き直った。
「さて、では話の続きを伺おうか?」
ワイルダーは、自席を回転させて、床から引き出した副長席に座るマリを見つめる。
マリのサイドテーブルに出されたコヒーを飲むように勧めた。
自らも、大き目のマグカップを手に取る。
「我々もフォールド・クオーツの存在は知っている。だがそのためだけに、フロンティアが市民を盾にした行動を取るとは、にわかには信じがたいな。」
「そうね。開示出来る様な資料もないし。キャプテンに信じて貰えるような証拠も無い。」
「ふむ・・・。」
「じゃあ、お仕事の依頼としてはどうかしら? シェリルを奪回して欲しいの。報酬は相談に乗るわ。先回のミッション相当のお金は準備できる。」
(高いんだろうなあ~。)
「我々は金の亡者ではない。組織的な救出チームの提供なら、1千万クレジットもあれば十分だ。 だが、犯罪者救出は重大な法令違反になる。」
「裁判も無しに死刑の方が、コンプライアンス(法遵守)違反なんじゃなくて?」
「・・・戦時だからな。」
「戦時かどうかを決めるのも政府よ。余計な法律の拡大解釈だわ。」
ワイルダーの表情はほとんど変わらない。
話を続けるしかないか。
マリは、胸のポケットから、カードを取り出す。
「このカード。デビットカードだから、この中に2億クレジットの残金があるわ。よければ前金で3千万クレジットぐらい引いてくれてもいいのよ。」
「今のミッション契約も終了してないし、その残金も頂いてないのに?」
「キャプテン! 受けてもらえるの?ダメなの?」
マリの声が少し荒ぶる。
「ブリッジ! こちらミハエル・ブランだ。 ルカ・アンジェローニ少尉を確保した。急減圧症で意識を失っているが、酸素供給は確保した。救急艇への搬送を急ぐ。医療チームの準備も頼む!」
その突然の報告を受け、さきほどの女性オペレーター、モニカと言ったか? 矢継ぎ早の指示をいくつかの部署に回す。
視線をそちらに送っていた、ワイルダーが再びマリに視線を戻す。
マリと目をあわすと、「(やれやれ・・・。)」という表情をした。
つづく!
次回!
ちょっとまた時間ください。
シェリルの切ない悲恋ぽさを織り込みたいと、急に考え始めて混乱中!!
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- 2013/07/01(月) 23:34:47|
- 作品(マクロス小説)
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