とりあえずうp。
ちょっとマエの、その1、その2との整合とかあとでやろう。
言い訳は明日以降、週末に。
よければ読んでください・・・。
分校物語3
その3; さよならフェアリー9
「シェリル!シェリルってば!」
ダイアナに揺さぶられて、シェリルは意識を取り戻した。
失速を恐れて勢いよくデッキに飛び込みすぎたのだ。
制動のための逆噴射も、ダイアナを抱えたままではうまく行かず、なんとか身体を切替えたが、デッキの奥で何かにぶつかり、弾き返された。
「良かった、気がついた?」
ダイアナが、シェリルのヘルメットを覗き込みながら言う。
「スーツの報告だと、かるい打撲だけよ。脳震とうとかもなし。」
パイロットスーツが自動的に診断モニターを走らせたのだろう、バイザーにバイタル情報が表示されていた。
「ええ、大丈夫よ。 ダイアナは?」
「大丈夫、やっぱり打撲は有るけど。手足はちゃんとくっついてるわ。 今のところあなたの頭突きが最大の攻撃だったみたい。」
「もう!」
シェリルが上半身を起こす。
笑顔でシェリルの手を引いたダイアナが、そのまま両手を大きく広げてシェリルを抱締めた。
「ありがとう。とっても怖かった。」
ヘルメット越しで、強く抱擁するダイアナの顔は見えない。
だがその声が少し涙ぐんでいるのが分かる。
シェリルも抱擁を返す。
「ううん、私こそ。 助けてくれてありがとう。 最初のあなたの機転が無かったらどうなっていたか・・・。」
ダイアナがうなずく。
「・・・・ごほんっ。」
かるい咳払いをして、地上管制から、ギル・ブライス中尉の声が入った。
「お二人さん? 素晴らしいチームプレーだったよ! 教育隊にも見せたいくらいだった。
さあて、帰還のためにあと少し、仕事が残っている。 アンジェローニ少尉に変わる。」
やはり咳払いのあとに、ルカの声が心配そうに話し始める。
「ルカです。大丈夫ですか?こちらからじゃあ何も出来なくて。 血の気が引きました。この5分で寿命がかなり縮みました。」
立ち上がりながらシェリルが応える。
「5分?そんな時間しか経って無いのね。」
「ええ。 とにかく無事で良かったです。」
そう言いながらも、ルカは端末での情報収集、操作に余念がない雰囲気だ。
「ええと、pⅩの武装解除と、地上降下の指示をしないといけません。 お二人が今いる場所は、子ゴーストを納める格納スペースです。」
忙しくキーボード操作をする音が入る。
「周辺状況をグルッとカメラで見渡して貰えますか? こちらもモニターで追いますので。」
ゴーストのデッキは、身を置いて見れば案外と広かった。
「子機ゴーストの格納スペースなんだ。」
ダイアナとともにデッキ奥をうかがいながら、シェリルが言う。
光のない奥まった場所は、バイザーが光学補正をかけてくれるが、よく見えない。
「ダイアナ、ちょっと待って。 飛行パックを降ろして安全確認するわ。」
シェリルの言葉に、数歩進んだダイアナが答える。
「了解。アンジェローニ少尉の指示通り、ざっと確認してみる。」
シェリルは、EXギアの飛行ユニットをいったん降ろして、簡単な安全確認プログラムを走らせる、目視確認もする。
「(OK、異常はないわ。)」
作業を終えたところでダイアナの声がした。
「シェリル、ちょっと来て。 さっき私たちがぶつかったの。 これの一部よ。きっと。」
ダイアナのバイザーの細いライトと、暗視機能が見せるそれは、丸まる様に身を折り込んだ小型のバジュラだった。
「バシュラ?」
「バシュラの死骸よ。 見て、お腹の所。」
「卵?みたいね。」
「ええ。」
戦闘に加わるタイプのバジュラではないのだろう。
全体のフォルムも丸く、緑色の体色も柔らかな雰囲気だった。
それでも、大きな車ぐらいの大きさがあるそのバジュラは、5つ、あるいは6つばかりの長円形の細長い卵を、その足の間に抱いていた。
ダイアナが言葉を続ける。
「バジュラがこの星を脱出する時に、こぼれ落ちた卵を運搬しているのが目撃されているわ。そのうちの一体かも。」
「惑星に降下するギャラクシーのゴーストと、逃げるバジュラが衝突したのね。 あるいは瀕死でこのデッキに飛び込んだのか。」
「卵を抱えたままここで息絶えた。 卵は助からなかった?」
「そうみたいね。」
薄膜に包まれたそれは、すでに白濁化していた。
「ルカ?見えてる?」
シェリルが地上に呼びかける。
「はい、いろいろビックリな状況です。 保守用デッキに小型のバジュラが突っ込んだ様ですね。 おもな破損はそれが原因のようです。」
端末操作の作業音の後に、ルカが続ける。
「そちらの観察と平行して、こちらでも状況分析を始めていました。 バシュラの死骸もなんとか無事に降ろしたいです。
保安空域に降りる様にハッキングをかけているのですが、実はpⅩの中枢へのアクセスがうまく行きません。防護壁が正規のギャラクシーコードでも開放されないんです。
お二人を中継にして通信しているのですが。」
シェリルと、ダイアナのヘルメットバイザーの下方には、先ほどから、ルカが操作している情報が、流れるように表示され続けている。
実際のデッキ内の風景ともリンクするその矢印アイコンが、バジュラの死骸の奥を指し示す。
「すみません、そのバシュラをいったんどけて頂くと、奥に保守点検ハッチがあるはずです。 それを手動で切替えてもらえますか?」
シェリルは、ダイアナと顔を見合わせてから言う。
「女の子の仕事じゃないわ。」
「すみません。 EXギアの倍力装置なら、そんなに苦にはならないと・・・。」
シェリルが応える。
「わかってるわ、やるわよ! ルカ?あなた絶対にモテないわよ。」
「はあ・・・、気を付けます。」
ルカの返事は不満気だった。
「しょうがないわ。ダイアナ!行くわよ。」
ダイアナがためらいながら返事をする。
「う~、何処を持てばいいの? 突然暴れたりしない?」
「生命反応は無いから、動かないわよ。」
「でもやだわ・・。」
「そっち持って。行くわよ。せ~のっ!」
「(ごめんね。)」
シェリルは小さくつぶやきながら、その死骸を脇にどける。
そして、ルカの指示する場所には手動パネルがあった。
奥のプレートには、「pⅩ1138-4EB」とある。
「(・・・機体コード番号ね。)」
パネル内には、操作ボタンが幾つか並ぶ。
前面には、画像アクセス用のカメラもあった。
「セレクタを操作します。中央のメインの。 そうです、その赤いやつを下に。」
シェリルが見ているものが、ヘルメットのガンカメラで、ルカにもリアルタイムで送信されている。
シェリルの指が、幾つかのボタンの上を滑る。
「これね。」
シェリルは、探し当てたスイッチを押し下げた。
「バシャンっ!」、打撃音のような音が響いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
強制終了指示?
ゴーストpⅩ1138-4EBの思考分野がまたたく。
それなら体内に潜り込んでいるバシュラと、小型の正体不明機はどうするのだ?
あの日、降下するバトル・ギャラクシーと共に、編隊の一機として惑星に降りた。
地上から沸き上がるバシュラとの交差戦で、三機の子機を無くし、燃料もマイクロミサイルも使い果たした。
もう何も残って無い。
この機体にも戦力価値は無い。
敵地での作戦終了ならば、機密保持の自爆が妥当だ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
突然!
断末魔の様に、機体がうねる。
死んでいたものが生き返ろうとするかの様に、シェリルとダイアナのいる保守デッキに煌々と明りがまたたく。
そして、不快ともとれるアラート音が鳴り響いた。
「何の警告アラート?」ダイアナが不安げにシェリルの傍に寄る。
ルカの声が、地上で奮闘している。
「自爆許可申請? なっ、だめだキャンセル。って?エラー?」
慌てた声がつづく。
「こっちの・・・、ダメか? ファイアーウォールが再構築? 張付いて動かない!アクセスも再キャンセル? くそ! どこかに隙間をつくらないと!」
煌々と打ち付けるライトと、大音響のアラートに立ち向かいながら、シェリルは、傍らに立つダイアナの手を、強く握り締めた。
手をつないだまま、ヘルメットバイザーを開けて、シェリルは、pⅩの、操作パネルにあるアクセスカメラに向って、毅然と問い質した。
カメラの作動光点と、pⅩの機体ナンバープレートが輝いている。
「pⅩ1138-4EB! 私は、フェアリー9です。
あなたは私を保護する義務があります。 命令は受領しているわね?」
その声に、姿に、明らかにpⅩが反応を見せた。
・・・・・・・・・・
フェアリー9?
保護対象?
たしかに、「それ」は、処分指示が発令されない限り、最優先の保護対象者だ。
思考分野に、フェアリー9の画像が再生される。その歌声とともに。
再生された画像と楽曲に何かを感じる事はない。
引き出したメモリーと、保守デッキ内にいる存在とを照合するためだけだ。
だが。
ああ、確かにシェリル・ノームだ。
その事実が認識できた時、人で言えば、pⅩは少し安らいだ気がした。
まだ寄る辺はあったのだ。
指示に従おう。
保守系統を手放す。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その一瞬が、pⅩ1138-4EBの自律判断回路の、本当の最期だった。
煌々と、照らしつけるライトは、まるでシェリルに突き刺さってくる光の矢だった。
まともに顔を上げていられない。
まぶしくて?シェリルの頬を涙がつたわる。
シェリルは、自分の事をフェアリー9などと呼んだことはない。
グレイスだって、ブレラだって、そんな呼び方をしたことはない。
だが、戦役が終結してから、自分がギャラクシーで「フェアリー9」というコードネームで呼ばれていた事を知った。
フェアリー9だ!
じゃあ、1から8までは何の番号だったの?誰かがいたの?その人たちはどうなった?
誰も何も教えてはくれなかった。
「(私も番号で呼ばれていた・・・。)」
そして・・・突然、アラートがやみ、光の瞬きが止まり、うねるような振動もとまる。
「やった! 突破!押さえました!」
ルカの声が、はるか彼方の地上から聞こえた。
デッキの明かりが、少しずつ落ち、少しの瞬きの後に再び消えた。
「おやすみ、pⅩ1138・・・。」
つぶやくと、シェリルがその場に泣崩れた。
ヘルメット越しでは顔を覆うこともできない。
それでも、シェリルは持ち上げた両手を戻す事ができない。
「大丈夫、大丈夫よ。シェリル、大丈夫だから・・・。」
ダイアナがシェリルを抱締めると、シェリルの手がダイアナを抱き返し、やっと、さまよっていた彼女の手が落ち着く場所を得た。
そのまま、二人はしばらく動けなかった。
さまよう機体は、再び静けさを取り戻したのだ。
「・・・さて、早乙女訓練生? 飛行できるEXギアは1機しかない。ゴーストが地上に降りるのにも半日以上かかる。」
押し黙ってしまった沈黙をやぶり、地上のギル・ブライス中尉が語りかける。
「さっき、ご主人が成層圏高度まですっ飛んでいった。
迎えに行かせるよ。 そこから90秒落下すると、だいたい時速187キロかな?そこでキャッチだ。」
座り込んだまま、それでも泣き止んだシェリルが顔を上げる。
ダイアナにも「(もう大丈夫。)」と笑いかける。
「・・・わかったわ。 いつ飛び降りればいい?」
「いつでもどうぞ!」
ギル・ブライスが応える
「あらやだ! ダイアナ! 先に行くわ。」
シェリルは跳ね起きると、スーツの点検をさっさと終えて、軽く手をふってから、そのデッキから中空へ飛び出した。
「え?」
完全においてけぼり?
「やだ!こんなとこに置いてかないでよ~。 ズルイ~!私も王子様キャッチの方が良いのに~!」
ダイアナは、残されたEXギアをあわてて装備すると、やはり安全確認をしてから、空に飛び込んだ。
シェリルは自由落下状態で、時速187kmに達した。
無人のVF25が、シェリルの傍らを追い越して行く。
相対速度を合わせているのだろう、自由落下のシェリルをそっと抱きしめる腕が伸びる。
「遅いわよ!」シェリルがいつも通りの口調で言う。
「すまん!しっかりつかまってろ!水平飛行に移るぞ。」
アルトのEXギアの翼がゆっくりと開き、大気がブレーキをかける。
下方で先行しているVFも、二人の軌道に同調し、同じように機首をあげる。
フロンティアの空に、VF25と、アルトのEXギアがゆっくりと弧を描いた。
「ずるいわ! ぜったいずるいわ!なんで私は独りぼっちなの!」
上空で同じように滑空飛行に入ったダイアナの声が響く。
「そんな奴、頭突きしちゃって!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「皆様、本日は御搭乗ありがとうございます。
当機は離陸後、一時間程で大気圏を離脱。
惑星近傍のフォールドポイントを経由して、オリンピア船団までの直接便です。
到着地までは、4時間20分を予定。現地天候は晴。気温は21℃の連絡を受けています。
機長は、ダイアナ・バリー、チーフパーサーは・・・、」
居心地の良いシートに納まったシェリルは、コクピットのダイアナのことを考える。
旅客パイロットは彼女の夢だったのだ、今はシェリルのことなど考えてはいまい。
すでに機体はタキシングを始めている。
「(ふふふ、そう言えば、ダイアナの王子様の話も聞かなきゃ。)」
シェリルは、青いフロンティアの空に視線を戻した。
終わり!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
おまけ・・・
アルトがシェリルを確保して、VFのコクピットに戻る。
コクピットキャノーピーが締まると、シェリルは音声出力を切り、ヘルメットバイザーをアルトに寄せた。
接触通信で二人だけの会話になる。
「怖かったの。」
「すまない、駆け付けるのが遅れた。」
「ねっ!ヘルメット取ってキスして。」
「バカ言え!フライト中だ、内規違反だ!」
「もう! えいっ!」
ガッんと打撃音が連続する。
「なっ、バカ。頭突きをするな!」
「何言ってるの!これはキスよ!キス。」
「そう言うのは帰ってからだ!」
「やっぱり、ずるいわー!」
ダイアナが静かに?上空を滑空する。
スポンサーサイト
- 2012/06/07(木) 23:46:33|
- 作品(マクロス小説)
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0